相続税の連帯納付義務の意義と徴収手続 

1 相続人は他の相続人の相続税の納税義務について連帯納付義務を負う

相続税の納税義務者は、相続または遺贈(死因贈与を含みます)によって財産を取得した個人です(相続税法1条の3。なお、例外として同法66条1項、4項)。そして、相続税の納税義務者は、原則として自分が負担すべき固有の相続税について納税義務を負担することになります。

もっとも、相続税法は、相続又は遺贈により財産を取得した者(相続人又は受遺者。以下「相続人等」といいます)が二人以上いる場合、各相続人等に対し、自分が負担すべき固有の相続税の納税義務のほかに、他の相続人等の固有の相続税の納税義務について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務を負担させています(相続税法34条1項)。

これは、相続人等が自分の相続税の納税義務のみを負うとすると、相続人等の中に無資力の者がいる場合などに相続税の徴収が困難になることから、各相続人等に対し、他の相続人等の納税義務についても特別の責任を負わせたものと考えられます。

以下では、相続税法34条1項の連帯納付義務の具体的な内容や徴収手続などについてみていきます。

2 相続税の連帯納付義務の意義

(1)相続税法34条1項の連帯納付義務の内容

同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる、とされています(相続税法34条1項本文)。

ここにいう「同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者」には、自分の固有の相続税の納税義務を負わない者も含まれると解されます(金沢地裁平成15年9月8日判決参照)。

「互いに連帯納付の責めに任ずる」とは、仮に同一の被相続人から相続等により財産を取得した者をA、Bの二人とする場合、①Aに固有の相続税の納税義務がある場合には、そのAの納税義務についてBが連帯納付責任を負うとともに②Bに固有の相続税の納税義務がある場合には、そのBの納税義務についてAが連帯納付責任を負うという趣旨です。これには、相続人等の一方に固有の相続税の納税義務がないために、結果として一方的保証になる(相互保証とならない)場合も含まれると解されます(金沢地裁平成15年9月8日判決参照)。

例えば、複数の相続人等の中で、自分が負担すべき固有の相続税を完納していない者がいる場合、その未納分の相続税については、他の相続人等(固有の相続税の納税義務がない者も含む)が連帯して納付する責任を負うことになります。

相続人等が連帯納付義務を負担する限度となる「相続又は遺贈により受けた利益の価額」(相続税法34条1項)は、相続又は遺贈により取得した財産の価額(非課税財産の価額を含む)から、当該相続人等の負担に属する被相続人の債務等の額、相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額を控除した後の金額とされており(相続税法基本通達34-1)、現存利益の額に限定されるものではありません(大阪地裁昭和59年4月25日判決)。

連帯納付義務の適用が除外される場合

なお、下記の3つの場合には、相続税法34条1項の連帯納付義務の規定は適用されません。

①本来の納税義務者が納付すべき相続税について、申告書の提出期限等から5年を経過する日までに、税務署長が連帯納付義務者に対し納付通知書(相続税法34条6項)を発していない場合には、当該連帯納付義務者が連帯納付義務を負うことはありません(相続税法34条1項1号)。

②本来の納税義務者が延納(相続税法38条1項、47条1項)の許可を受けた場合には、当該延納の許可を受けた相続税について、連帯納付義務者は連帯納付義務を負いません(同条同項2号)。

③本来の納税義務者が一定の納税猶予を受けた場合には、当該猶予を受けた相続税について、連帯納付義務者は連帯納付義務を負いません(同条同項3号)。

(2)相続税法34条1項の連帯納付義務を履行する場合の留意点

連帯納付義務者が一定期間内に相続税を納付する場合には延滞税に代えて利子税を納付する

連帯納付義務者が相続税法34条1項に基づき相続税を納付する場合、当該相続税と併せて納付すべき延滞税については、一定の場合、負担軽減のために延滞税に代えて利子税を納付することとされています(相続税法51条の2第1項1号、2号)。
なお、連帯納付義務者が相続税を納付する場合には、延納の規定(相続税法38条)の適用はなく(相続税法基本通達38-5)、一括納付が求められることに留意する必要があります。

連帯納付義務者が本来の納税義務者等に対する求償権を放棄すると贈与とみなされる場合がある

連帯納付義務者が相続税法34条1項に基づき相続税を納付した場合、本来の納税義務者や他の連帯納付義務者に対する求償権が生じることになり(国税通則法8条、民法442条)、連帯納付義務者は、求償権を行使して、本来の納税義務者等に対し、その負担分を求めることができます。

連帯納付義務者が求償権を放棄した場合には、本来の納税義務者等に対する贈与とみなされ(相続税法8条本文、相続税法基本通達34-3(注)、同8-3)、本来の納税義務者等に贈与税が課税される可能性があります。この場合、連帯納付義務者は、当該贈与税について連帯納付義務を負担する点に留意する必要があります(相続税法34条4項)。
なお、本来の納税義務者等が資力を喪失して相続税を納付することが困難であることから、連帯納付義務者による相続税の納付が行われた場合には、本来の納税義務者等への贈与とみなされることはありません(相続税法8条但書、相続税法基本通達34-3)。

3 相続税の連帯納付義務の徴収手続

(1)相続税法34条1項の連帯納付義務につき格別の確定手続は不要とされる

判例(最高裁昭和55年7月1日判決)は、相続税法34条1項の連帯納付義務について、相続税法が相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であって、その義務の履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定は、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではない旨を判示しています。
したがって、相続税の申告や更正、決定により、各相続人等の固有の相続税の納税義務が確定した場合、税務当局は、格別の確定手続を要することなく、連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができると解されます。

(2)連帯納付義務者に対する納付通知書による告知等が必要となる

本来の納税義務者が相続税を納期限までに完納しない場合、まず当該納税義務者に対し、督促状により納付の督促がなされます(国税通則法37条)。
そして、督促状を発した日から1か月を経過する日までに当該相続税が完納されない場合には、当該相続税に係る連帯納付義務者に対し、当該相続税が完納されていない旨やその他一定の事項が通知されます(相続税法34条5項)。

なお、相続税の徴収権の時効に関して、本来の納税義務者に対する督促等による時効の完成猶予及び更新(中断)の効力は(国税通則法73条1項4号、民法147条参照)、連帯納付義務者にも及ぶと解されています(東京高裁平成20年4月30日判決)。

連帯納付義務者に対する通知がなされた場合において、実際に相続税を連帯納付義務者から徴収しようとする場合には、納付すべき金額や納付場所等を記載した納付通知書による通知が必要となります(相続税法34条6項)。
そして、納付通知書を発した日の翌日から2か月を経過する日までに、当該通知に係る相続税が完納されない場合には、当該連帯納付義務者に対し、督促状により納付の督促(国税通則法37条)がなされます(相続税法34条7項)。

連帯納付義務者が督促に係る相続税を一定期間内に完納しない場合には、税務当局の手続は租税債権を強制的に実現する段階に移行し、具体的には、滞納処分により連帯納付義務者の財産の差押や差押財産の換価、換価代金等の配当が行われることになります。

(3)相続税の連帯納付義務に補充性はない

相続税法34条1項の連帯納付義務は、本来の納税義務者以外の者に納税義務を負担させる点において、第二次納税義務(国税徴収法32条以下)に類似しています。
しかし、第二次納税義務は、本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき税額に不足すると認められる場合に限り、一定の限度で納税義務を負担するものとして補充性を有しているのに対し(国税徴収法33条~39条、41条)、相続税法34条1項の連帯納付義務については、そのような限定を付した規定がなく、補充性はないと解されています。

もっとも、裁判例(東京地裁平成10年5月28日判決、名古屋高裁金沢支部平成17年9月21日判決)は、本来の納税義務者が現に十分な財産を有しており、本来の納税義務者から滞納に係る相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、税務当局が恣意的に当該相続税の徴収を行わず、他の相続人等に対して滞納処分を執行したような場合には、国税徴収権の濫用にあたると評価できる旨を判示しています。
これは、相続税法34条1項の連帯納付義務に補充性はないとしても、本来の納税義務者に対する徴収手続を尽くさずに、連帯納付義務者に滞納処分を執行したような場合、正義公平の観点から国税徴収権の行使として許容できない場合があるという考え方を示したものです。
また、税務当局は、滞納処分の執行に支障を生ずるおそれがない限り、本来の納税義務者から徴収するように努めるものとされています(国税庁・徴収事務提要(事務手続編)262頁)。

4 まとめ

相続税法34条1項の連帯納付義務は、同一の相続によって生じた相続税の全額につき相続人等の全員が共同して責任を負う制度であり、相続人等は、自分の固有の相続税を完納したとしても、他の相続人等の相続税について負担を求められる可能性があります。

相続税の納付を円滑に進めるためには、相続人等の間での協力や事前の合意が必要となる場合がありますので、遺産分割の際には、各相続人等の相続税の負担割合や納税資金の確保に留意しながら、各相続人等の取得する財産の規模や内訳等について話し合いを進めることが望まれます。


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