贈与による財産の取得時期と贈与税
1 贈与税は相続税を補完する役割がある
贈与税は「相続税法」という法律の中に規定されており、贈与税の税率は相続税よりも高い税率となっています。
これは、相続税の税負担を回避または減少させる目的で行われる生前贈与に対処するためであり、贈与税は相続税の補完税としての役割を有しています。
2 贈与税は、贈与によって取得した財産に課税される
贈与税の納税義務者は、贈与(死因贈与を除く)により財産を取得した個人です(相続税法1条の4。なお、例外として同法66条1項、4項)。
贈与税の課税対象は、贈与により取得した財産であり、贈与税が課税される財産には金銭に見積もることができる経済的価値のあるものすべてが含まれます。
具体的には、民法上の本来の贈与財産のほか、課税の公平を図る観点から、贈与により取得したものと擬制して課税対象とされる「みなし贈与財産」があります(相続税法5条など)。
なお、法人からの贈与により取得した財産や、扶養義務者相互間における生活費や教育費に充てるための贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものなどは、非課税財産とされており贈与税の課税対象にはなりません(相続税法21条の3)。
3 贈与による財産の取得時期とは?
贈与税の納税義務は、贈与による財産の取得の時に成立します(国税通則法15条2項5号)。
それでは、「贈与による財産の取得の時」とは具体的にどのような時期をいうのでしょうか?
民法において、贈与は、当事者の一方(贈与者)が、ある財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表示し、これを相手方が受諾することによって成立し(民法549条)、これにより特段の行為を要することなく財産権移転の効力が生じます。
したがって、民法の一般理論による場合、税法上の「贈与による財産の取得の時」を贈与契約が成立した時と解して、贈与契約が成立した時点で贈与税の納税義務が成立すると考えるのが自然といえます。
もっとも、相続税法基本通達では、「贈与による財産の取得の時」に関して、原則的に(1)書面による贈与の場合と(2)書面によらない贈与の場合とを区別した取扱いを定めており、また、その例外として(3)所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産の場合や(4)停止条件付の贈与の場合の取扱いを定めています。
(1)書面による贈与の場合
課税実務では、書面による贈与については「その契約の効力が発生した時」を贈与による財産取得の時期とする取扱いがされています(相続税法基本通達1の3・1の4共-8(2))。
これは、民法の一般理論を前提として、贈与契約の成立により財産権移転の効力が発生した時点を贈与による財産の取得時期とするものです。
なお、この取扱いについては、公正証書等の書面により不動産の贈与契約が成立した時を明確にしたうえで、贈与税の除斥期間(現行6年。相続税法36条1項)が経過するまで登記をしなかった場合の処理が問題となります。
この点について、裁判例の多くは、登記をしなかったことに合理的理由が認められない場合に、公正証書作成時の贈与の意思を否定し、書面による贈与契約の不成立を認定することで事案を処理しています(神戸地裁昭和56年11月2日判決、名古屋高裁平成10年12月25日判決など)。
(2)書面によらない贈与の場合
課税実務では、書面によらない贈与については「その履行の時」を贈与による財産取得の時期とする取扱いがされています(相続税法基本通達1の3・1の4共-8(2))。
具体的には、動産の場合はその引渡しがあった時、不動産の場合には所有権移転登記または引渡しのあった時が、それぞれ「履行の時」にあたり、その時点が贈与による財産の取得時期となります。
裁判例においても、書面によらない贈与について、その履行が終わった時に贈与による財産の取得があったとする判断が示されています(東京高裁昭和53年12月20日判決、東京高裁昭和56年8月27日判決など)。
民法上、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは各当事者がいつでも解除できることから(民法550条)、その履行前は目的財産の確定的な移転があったということはできないと考えられます。
したがって、贈与の履行が終了した時に贈与による財産の取得があったものとして、その時点で贈与税の納税義務が成立すると考えるのは妥当といえます。
(3)所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産の場合
不動産や自動車などの所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産については、上記(1)と(2)の取扱いにより贈与の時期を判定する場合において、その贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限り、その登記又は登録があった時に贈与があったものとして取り扱われます(相続税法基本通達1の3・1の4共-11)。
これは、所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産について、上記(1)と(2)の原則的な取扱いによっても贈与の時期が明らかにならない場合に、その特例として明確な登記又は登録の時点をもって贈与による財産取得の時期とするものです。
(4)停止条件付の贈与による財産取得の時期
課税実務では、停止条件付の贈与については、その条件が成就した時が財産取得の時期とされます(相続税法基本通達1の3・1の4共-9)。
これは、停止条件付の法律行為は、条件成就の時からその効力が生じることから(民法127条1項)、上記(1)及び(2)とは別個の取扱いを定めたものです。
4 まとめ
贈与税は、贈与により財産が移転する機会に課される税金であり、贈与による財産の取得時期によって贈与税の納税義務が成立する時点が異なることになります。
また、贈与税の納税義務が成立する時期は、贈与税を申告する時期(相続税法28条1項)や繰上保全差押の可能となる時期(国税通則法38条3項)、納税申告書の提出先(国税通則法21条2項)などに影響するものであり、税務上、贈与による財産の取得時期については、課税実務の取扱いを踏まえて慎重に判断することが重要となります。
関連記事はこちら
関連業務はこちら:相続対策・遺留分