遺留分侵害額請求に伴う相続税と所得税

1 遺留分制度に関する民法改正

改正前の民法では、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使することにより、遺贈や贈与の目的物上の権利が遺留分権利者に当然に帰属することになり、遺贈等の目的となった財産については、遺留分権利者と受遺者等の間で共有関係が生じるとされてきました。

平成30年の民法改正では、従来の遺留分制度が変更され、遺留分権利者が「遺留分侵害額請求権」を行使することにより、遺留分権利者の受遺者等に対する金銭債権が発生することになりました。
また、金銭を直ちに準備できない受遺者や受贈者を保護するため、受遺者等の請求により、裁判所が金銭債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるものとされました。
今回の遺留分制度の改正の理由としては、遺贈等の目的財産に共有関係が当然に生じるという従来の規律が事業承継の妨げとなっていたことなどが挙げられています。

2 遺留分侵害額請求に関する相続税の税務処理

遺留分侵害額の請求が行われた場合の相続税の課税関係については、これまでの処理と大きな変更はありません。
これは、遺留分に関する権利行使が行われた場合における遺留分権利者と受遺者等の相続税を負担する資力の増減について、民法改正の影響はないと考えられるためです。

(1)相続税の申告期限までに遺留分侵害額の請求が行われて受遺者等の金銭債務の額が確定した場合

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。
この申告期限までに遺留分侵害額の請求が行われ、受遺者等の金銭債務の額が確定した場合には、遺留分侵害額の請求を受けた受遺者等は、確定した金銭債務の額を相続税の課税価格から控除し、遺留分侵害額の請求を行った遺留分権利者は、確定した金銭債権の額を相続税の課税価格に加算して、それぞれ相続税の申告・納付をします。

相続税の申告期限までに遺留分侵害額の請求が行われたものの、受遺者等の金銭債務の額が確定していない場合には、遺留分侵害額の請求を受けた受遺者等は、その遺留分侵害額の請求がなかったものとして、相続税の申告・納付をすることになります。

(2)相続税の申告期限後に受遺者等の金銭債務の額が確定した場合

遺留分侵害額の請求が行われたことにより、相続税の申告期限後に受遺者等の金銭債務の額が確定した場合、遺留分侵害額の請求を受けた受遺者等は、課税価格及び相続税額が過大となったとして、更正の請求をすることができます。
更正の請求の期限は、遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内(相続税法32条1項3号)あるいは相続税の申告期限から5年以内(国税通則法23条1項)のいずれか遅い日までとなります。

遺留分侵害額の請求を行った遺留分権利者は、相続税の申告期限後に受遺者等に対する金銭債権の額が確定した場合、期限後申告(相続税法30条1項)または修正申告(相続税法31条1項)をすることができます。
受遺者等に対する金銭債権の額が確定するには時間がかかることから、期限後申告について正当な理由があると認められる場合には無申告加算税は課されません(国税通則法66条1項但書)。
また、相続税の申告期限から期限後申告書や修正申告書の提出日までの期間についても延滞税は課されません(相続税法51条2項1号ハ)。

3 遺留分侵害額請求に関する所得税の税務処理

今回の民法改正により、遺留分侵害額の請求が行われると遺留分権利者の受遺者等に対する金銭債権が発生することになりますが、これにより、所得税の課税関係には下記の通達が新設されることになりました。

(1)具体的には、まず、遺留分侵害額の請求に基づいて遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したことになるとして、譲渡所得課税の対象になることが示されました(所得税法基本通達33-1の6)。
また、遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転を受けた者は、原則として、その履行により消滅した債権の額に相当する価額により当該資産を取得したことになるとして、譲渡を受けた資産の取得費の考え方が示されました(所得税法基本通達38-7の2)。

(2)新設された通達は、金銭の支払に代えて資産を移転した場合における金銭債務の消滅についてそれ自体一つの経済的利益とみたうえで、その消滅した金銭債務の額をもって資産の譲渡価額とするものであり、譲渡所得課税に対する最高裁の考え方に形式的に沿うものとなっています。
しかし、この通達の実際の射程範囲については、今後、遺留分侵害額の請求における金銭債務の処理の実例が積み重ねられていく中で慎重に見極めていく必要がありそうです。

 

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