未分割の遺産から生じる収益の帰属と税務上の取扱い

1 未分割の遺産から生じる収益は相続人の誰に帰属するのか?

被相続人の相続が開始した後に未分割の遺産を使用管理することによって収益が生じる場合、その収益の取扱いについて問題となることがあります。

例えば、相続人が複数いる場合において、被相続人の相続開始から遺産分割までの間に遺産の賃貸不動産から賃料が生じている場合、その賃料は遺産に含まれるのでしょうか?また、その賃料は相続人の誰に帰属すると考えるべきでしょうか?

この未分割の遺産から生じる収益の取扱いについては、これまで様々な見解が主張されてきており、主要なものとしては、相続開始の時点より各共同相続人が相続分に応じて取得するという考え方、遺産分割により当該遺産を取得した相続人が相続開始の時点に遡って取得するという考え方、などがあります。

2 未分割の遺産から生じる収益についての判例の考え方 

この点について、判例(最高裁平成17年9月8日判決)は、相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生じる賃料債権について、遺産とは別個の財産としたうえで、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するとしています。
また、同判例は、遺産分割には遡及効があるとしながらも、各共同相続人がその相続分に応じて確定的に取得した賃料債権の帰属については、後に行われた遺産分割の影響を受けないとしています。

このように、判例は、①相続開始から遺産分割までの間に遺産から生じる賃料債権は遺産とは別個の財産である②この賃料債権は各共同相続人が相続分に応じた分割単独債権として確定的に取得するものである③各共同相続人が相続分に応じて確定的に取得した賃料債権の帰属はその後に遺産分割がされても影響を受けない、という考え方を示しています。

3 遺産分割手続における取扱い

遺産分割手続において、未分割の遺産から生じる収益は具体的にどのように取り扱われるでしょうか?

上記2のとおり、遺産から生じる収益は遺産とは別個の財産であり、原則として遺産分割の対象とはなりません。
もっとも、実務においては、相続開始から遺産分割までの間に遺産から生じた収益を遺産分割の対象とすることに共同相続人の全員が合意した場合には、遺産分割の対象とする取扱いがなされています(東京高裁昭和63年1月14日決定)。

したがって、共同相続人の全員が合意をすれば、未分割の遺産から生じる収益に関する問題を遺産分割手続で解決することができます。
なお、共同相続人全員の合意が得られない場合には、遺産から生じる収益に関する争いは、遺産分割手続から切り離されて、原則どおりに民事訴訟による解決が図られることになります。

4 未分割の遺産から生じる収益の税務上の取扱い

税務上の取扱いにおいても、相続開始から遺産分割までの間に遺産から生じる収益については、各共同相続人がその相続分に応じて確定的に取得することを前提としています。

したがって、未分割の遺産から生じる収益は、各共同相続人が自らの相続分に応じて取得したものとして所得税の課税対象となり、各共同相続人は、相続が開始した時点より、自らの相続分に応じた収益について所得税の申告をすることになります。

また、後に遺産分割がなされて、収益を発生させる遺産が特定の相続人に帰属することが確定した場合においても、相続開始から遺産分割までの間に各共同相続人が相続分に応じて取得した収益の帰属について影響を及ぼすことはありません。

そのため、各共同相続人が自らの相続分に応じた収益について既に行っている所得税の申告に関して、遺産分割による遺産の帰属の確定を理由とする更正の請求または修正申告を行うことはできないことになります。

5 まとめ

未分割の遺産から生じる収益の問題については、遺産を事実上管理する相続人から開示される収益の内容や金額に他の相続人から疑義や不満が出される場合や相続開始から遺産分割までの間に収益の一部が相続人によって既に費消されている場合など、その解決には困難を伴うケースが少なくありません。
未分割の遺産の収益に関する争いは、相続人間の感情的な対立等に起因して紛糾することも多いことから、判例の考え方や税務上の取扱いを踏まえながら慎重に対処することが重要となります。


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