代償分割における相続税と所得税の課税関係

1 代償分割はどのような場合に利用されるか?

代償分割とは、共同相続人の一人または数人が、被相続人の遺産の全部または一部を現物で取得し、他の共同相続人に対して代償財産を交付するなどの債務を負担することにより遺産を分割する方法です。

遺産分割の方法には、代償分割のほかに、現物分割(遺産を現物のままで分ける方法)、換価分割(遺産を未分割の状態で売却してその代金を分ける方法)、共有分割(遺産を複数の相続人により物権法上の共有とする方法)があります。

このうち、代償分割は、現物分割が不可能な場合、現物分割を行うと遺産の経済的価値が著しく減少する場合、遺産の性質や事業の継続その他の理由により特定の相続人に特定の遺産を現物として取得させるのが合理的である場合などによく利用されます。

遺産分割協議や遺産分割調停では代償分割を任意に選択できる

相続人の間で遺産分割協議を行う場合には、遺産分割方法の選択に特段の制限はありませんので、相続人の合意により代償分割を任意に選択して遺産分割をすることができます。

家庭裁判所の遺産分割調停においても、ほとんどの事案で、相続人の合意があれば、遺産分割の方法を任意に選択することができますので、遺産の性質や相続人の希望を踏まえて代償分割を選択することにより、柔軟な遺産分割が可能となります。

遺産分割審判での代償分割の取扱い

もっとも、代償分割は、家庭裁判所の遺産分割審判では、特別の事情があると認められるときに限り、現物分割に代えて行うことができるとされています(家事事件手続法195条)。

そして、遺産分割審判で代償分割を行う場合に求められる「特別の事情」(旧家事審判規則では「特別の事由」)について、裁判例は、①相続財産が細分化を不適当とするものであること②共同相続人間に代償金支払の方法によることについて争いがないこと③当該相続財産の評価額が概ね共同相続人間で一致していること④当該相続財産を承継する相続人に債務の支払能力があることを挙げています(大阪高裁昭和54年3月8日決定)。

上記の要件は、家庭裁判所の遺産分割審判で代償分割を行う場合の基準ですが、代償分割を選択する際に考慮すべきポイントを示していますので、相続人間の遺産分割協議などで代償分割を選択する際にも参考となります。

2 代償分割における相続税の課税関係

(1)代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算

相続税法は、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者の相続税の課税価格について、相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額によると規定しています(相続税法11条の2)。

もっとも、代償分割により他の相続人に対して代償財産を交付した者及び代償財産の交付を受けた者の相続税の課税価格の計算方法については、相続税法において特に規定されていません。

そこで、通達は、代償分割が行われた場合の相続税法11条の2による相続税の課税価格の計算方法について、代償財産を交付した者、代償財産の交付を受けた者の区分に応じて、下記の方法を示しています(相続税法基本通達11の2-9)。

ア 代償財産を交付した者

代償分割により遺産を現物で取得したうえで他の相続人に対して代償財産を交付した者について、相続税の課税価格の計算は下記のとおりとなります。

相続税の課税価格=相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額-交付した代償財産の価額

イ 代償財産の交付を受けた者

代償分割により代償財産の交付を受けた者について、相続税の課税価格の計算は下記のとおりとなります。

相続税の課税価格=相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額+交付を受けた代償財産の価額


代償分割が行われた場合に交付される代償財産は、被相続人から承継して取得したものではありませんが、遺産分割の一方法である代償分割により取得したものであることから、実質的には相続により取得した財産として相続税の課税対象になると解されます。

そこで、代償財産の価額は、代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算において、代償財産の交付を受けた者の相続税の課税価格に加算される一方で、各相続人の課税価格の総額が変わらないようにするために、代償財産を交付した者の相続税の課税価格から控除されることになります。

(2)代償財産の価額

① 代償財産の価額を代償債務の金額とする方法

相続税の課税価格の計算における代償財産の価額は、代償分割の対象となった遺産を現物で取得した者が他の共同相続人などに対して負担した債務(以下「代償債務」といいます)の額の相続開始の時における金額によるものとされます(相続税法基本通達11の2-10本文)。

代償財産の価額は、原則として、遺産を現物で取得した者が他の相続人に対して負担した代償債務の金額となります。

② 代償財産の価額を相続税評価額ベースに圧縮した代償債務の金額とする方法

ただし、共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて、下記の算式に準じた方法又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合には、代償財産の価額は、当該申告があった金額となります(相続税法基本通達11の2-10但書(1))。
また、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割時における通常の取引価額を基として代償債務の額が決定されているときは、代償財産の価額は、下記の算式により計算した金額となります(相続税法基本通達11の2-10但書(2))。

代償財産の価額=代償債務の金額×(代償分割の対象となった財産の相続開始時における相続税評価額÷代償分割の対象となった財産の代償分割時における通常の取引価額)

これは、(a)代償分割の対象となった遺産の相続開始時の相続税評価額と(b)代償債務の額の決定の基になった代償分割時の通常の取引価額(時価)との間に乖離がある場合に、代償財産の価額について、代償債務の金額を相続税評価額ベースに圧縮(調整)して計算した金額をもって評価する方法となります。

(3)相続税の課税価格の計算の具体例

相続税評価額1億円、代償分割時の時価1億2500万円の土地(遺産)を、相続人X、Yの二人だけで相続し、遺産分割により、Xが土地を単独で取得したうえで、Yに対する代償債務(5000万円の交付)を履行した場合、相続税の課税価格の具体的な計算は下記のとおりとなります。

① 代償財産の価額を代償債務の金額とする場合

・Xの課税価格=1億円(相続により取得した土地の相続税評価額)-5000万円(交付した代償財産の価額(代償債務の金額))=5000万円

・Yの課税価格=5000万円(交付を受けた代償財産の価額)

② 代償財産の価額を相続税評価額ベースに圧縮した代償債務の金額とする場合

Xが土地を単独で取得するとともに、Yに対する代償債務の額(5000万円)が土地の代償分割時の時価1億2500万円を基として決定されている場合、土地の遺産分割による実質的なYの取得分は40%(=5000万円÷1億2500万円)となり、Xの取得分は60%となります。
この場合、相続税の課税価格の計算における代償財産の価額を、下記のように、相続税評価額ベースに圧縮した代償債務の金額とすることにより、XとYの相続税の課税価格を調整して、相続税の総額に対するXの負担割合を60%、Yの負担割合を40%とすることができます。

・Xの課税価格=1億円-{5000万円(代償債務の金額)×(1億円(代償分割の対象となった土地の相続開始時の相続税評価額)÷1億2500万円(代償分割の対象となった土地の代償分割時の時価))}=6000万円

・Yの課税価格=5000万円×(1億円÷1億2500万円)=4000万円

3 代償分割における所得税の課税関係

(1)代償財産の交付に関する所得税について

代償分割により他の相続人に対して代償財産を交付した者について、代償財産の交付に関する所得税の課税関係は下記のとおりとなります。

ア 代償財産として金銭を交付した場合

代償分割により他の相続人に対して代償債務を負担する者が、代償財産として金銭を交付した場合には、金銭の譲渡となり、所得税の課税はありません。
譲渡所得課税の対象となる「資産」(所得税法33条1項)に金銭は含まれないと解されているためです。

イ 代償財産として金銭以外の資産を交付した場合

代償分割により他の相続人に対する代償債務を負担する者が、代償財産として金銭以外の資産(固有の不動産など)を交付した場合には、交付があった時の時価により当該資産を譲渡したことになりますので、譲渡所得課税の対象となります(所得税法33条1項、所得税基本通達33-1の5)。

(2)代償分割が行われた後の財産の譲渡に係る所得税について

代償分割の対象となった相続財産を現物で取得した者と代償財産の交付を受けた者のそれぞれについて、代償分割後の財産の譲渡に係る所得税の課税関係は下記のとおりとなります。

ア 代償分割の対象となった相続財産を現物で取得した者

代償分割の対象となった相続財産を現物で取得した者が、その後に当該財産を譲渡した場合には、譲渡所得課税の対象となります(所得税法33条1項)。

この場合、代償分割により現物で取得した相続財産は、当該財産を取得した者が相続開始の時に単独相続したものとして、所得税法60条1項1号の「相続」により取得した財産に該当することとなります。
そのため、譲渡所得の計算(所得税法33条3項、38条1項)においては、相続前から引き続き所有していたものとして取得費を考えることから、代償債務に相当する金額は、代償分割により現物で取得した財産の取得費には参入されません(最高裁平成6年9月13日判決、所得税基本通達38-7(1))。

なお、相続税の申告期限後3年以内に譲渡した場合には、相続税額の取得費加算の特例(租税特別措置法39条)の適用がありますが、取得費に加算される相続税額について一定の調整が必要となります(租税特別措置法関係通達39-7)。

イ 代償財産(金銭以外の資産)の交付を受けた者

代償財産として金銭以外の資産の交付を受けた者が、その後に当該資産を譲渡した場合には、譲渡所得課税の対象となります(所得税法33条1項)。
この場合の譲渡所得の計算における当該資産の取得費は、当該資産の交付を受けた時の時価によるものとされます(所得税基本通達38-7(2))。

4 まとめ

代償分割は、被相続人の遺産が不動産や事業用の財産などの場合に相続人間の公平を図りながら遺産を分割する方法として利点があります。
もっとも、代償分割を選択するには、代償債務を負担する者の資力や代償債務の履行確保、代償財産の価額の算定方法などに留意する必要があります。
また、代償分割と換価分割では相続人の課税関係が異なることから、遺産分割協議や調停で合意した遺産分割の内容が代償分割と換価分割のいずれに該当するかについて争いとなる場合もあります。
代償分割を行う場合には、上記の税務上の取扱いを見据えながら、遺産の状況や相続人の意向を踏まえて進めることが重要となります。


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