消費税の課税を巡る税理士の責任 ― 裁判例からみる注意義務の内容と実務上の留意点

1 裁判例における税理士の注意義務の傾向

消費税は、各種届出書の提出の有無やその提出時期によって税額が大きく左右される税目です。税理士としては、手続の遅滞や失念により依頼者から損害賠償を請求されるリスクを常に孕んでいるといえます。

当事務所では、かつて消費税の課税選択を巡る裁判例を取り上げたコラム(参照:税理士が訴えられる「消費税」のトラブル)において、東京地裁平成26年3月26日判決(以下「平成26年判決」といいます)を題材として、依頼者の消費税の課税形態の選択に関する税理士の注意義務について考察しました。
その後、東京地裁令和5年1月24日判決(以下「令和5年判決」といいます)では、依頼者の課税形態の選択の有利不利の判断に関する税理士の義務が正面から認められ、さらに、東京地裁令和6年1月25日判決(以下「令和6年判決」といいます)では、新規受任時の依頼者に関する過去の届出状況の調査の在り方が改めて問われるなど、消費税に関する重要な判断が続いています。

これら三つの裁判例によると、裁判所が税理士に求める注意義務の内容は、事案の違いに留まらず、実務を取り巻く状況とともに変化している様子がみられます。特に、将来の予測に基づく選択か、過去の事実の確認かという税理士の関与対象の違いによって、注意義務の内容が異なる点には留意する必要があります。
以下では、これらの裁判例を踏まえながら、税理士が負うべき注意義務の内容や実務上の留意点についてみていきます。

2 消費税の課税形態の選択に関する税理士の義務の範囲

(1)平成26年判決における原則的な考え方

平成26年判決において、裁判所は、消費税の課税形態に関する判断は依頼者に委ねられていることから、税務申告等に関与する税理士は、原則として、依頼者の事業の見通しを積極的に調査し又は予見したうえで、当該依頼者の消費税の課税形態の選択について助言又は指導を行うべき義務はないとしました。
そのうえで、裁判所は、例外的に税理士が依頼者に助言、指導等をすべき付随的な義務が生じうるのは、依頼者から消費税の課税形態に関する個別の相談等がある場合や、依頼者から適切な情報提供がされるなどして、課税上重大な利害得失がありうることを具体的に認識し、もしくは容易に認識しうるような事情がある場合であるとしています。

このように、平成26年判決は、依頼者の事業予測に基づく消費税の課税形態の選択に係る判断について、税理士の助言義務が生じる場合を限定的に解釈しています。
平成26年判決の事案では税理士の責任が最終的に否定されていますが、その要因としては、まず、依頼者の将来の課税仕入れや課税売上の情報が税理士に提供されたとはいえなかったことが挙げられます。また、税理士が依頼者に課税形態の選択の確認書を送付し、依頼者からの回答に基づいて手続を進めていたことや、課税形態の選択に係る届出書を依頼者において提出することが税理士との間で合意されていたという事実関係も重要であったと考えられます。

(2)令和5年判決にみられる判断の傾向

一方、令和5年判決において、裁判所は、平成26年判決が示した「税理士の義務を限定的に解釈する」という考え方から一歩進み、税理士に依頼者の課税形態の有利不利を判断すべき能動的な義務があることを認めています。
具体的には、簡易課税制度と本則課税制度の選択について、税理士は、依頼者から事情を聴取するなどして依頼者の来期以降の課税仕入れ額が大幅に変動する見込みがあるか否かを把握したうえで、いずれの制度を選択するのが依頼者の利益に叶うかを判断する義務を負うと判示しています。

この判決で注目される点は、平成26年判決が示した「依頼者からの相談や情報提供を前提とした税理士の限定的な義務」の範囲を超えて、税理士に対し、自ら依頼者の事情を聴取して有利な制度を判断するという能動的な調査と検討を求めたことにあります。
令和5年判決の事案では税理士の責任が認められており、その事情として、税理士が依頼者の消費税の確定申告に先立ち簡易課税制度と本則課税制度の違いや各制度による税額の違いを依頼者に説明していなかったことや、税理士が簡易課税制度と本則課税制度のいずれが依頼者の利益に叶うかについて判断した形跡が証拠上明らかでないことが指摘されています。税理士に対しては、依頼者への説明の経緯や検討の結果を証拠として残しておくことの重要性が改めて示されたともいえます。

3 新規関与時における過去の届出状況の調査と必要な届出の提出

令和6年判決にみる税理士の義務の内容と免責の留意点

令和6年判決は、先述の二つの裁判例のような「将来の課税形態の選択」ではなく、「過去の届出の事実」に関する税理士の注意義務が争われた事案です。

この判決において、裁判所は、依頼者から消費税の申告業務を受託した税理士について、依頼者にとって有利な税額の計算がされる仕入税額控除の方法により申告することや、その方法の適用を受けるために必要な各種届出書を法定の期限までに提出することが期待されるとしています。
そのうえで、裁判所は、当該事案において、税理士は、依頼者の消費税の申告に関し、過去の簡易課税制度選択届出書の提出の有無について、依頼者に確認するなどの調査を行い、その提出がある場合には法定の期限までに簡易課税制度選択不適用届出書を提出すべき注意義務を負うとしています。

令和6年判決の事案では、税理士が、新規に関与する依頼者側の担当者に対し、税務署等への届出資料について概括的な資料提供の依頼をしましたが、これに対する簡易課税制度選択届出書の提供が無かったことから、依頼者に対して明示的に問い合わせるなどの更なる調査をせずに、依頼者が簡易課税制度選択届出書を提出していないと誤認しました。この点について、裁判所は、税理士が依頼者との契約(以下「本件契約」といいます)で求められる調査を尽くしたものとはいえないと判断しています。

また、本件契約においては、依頼者側の情報提供義務違反による損害を依頼者の負担とする条項が設けられていましたが、裁判所は、当該条項について、税理士による資料提供の依頼が不十分な点があった場合にまで、資料提供の不足による損害を当然に依頼者の負担とする趣旨とはいえないと判断しています。

なお、令和6年判決の事案では、税理士の注意義務違反が認められながらも、重大な過失は認められなかったことから、本件契約上の税理士の軽過失を免責する条項により、最終的に税理士の責任が否定された点が注目されます。この結論は、注意義務の内容が高度化する現状において、契約上の制約や事前の合意事項が、税理士の責任の有無を確定させる重要な要素となり得ることを示すものといえます。

4 まとめ

以上の裁判例をみると、消費税を巡る税理士の注意義務は、事案の性質や実務を取り巻く状況の変化とともに、その要求水準が確実に高まっていることがうかがえます。将来の予測を伴う助言か、過去の事実の調査かを問わず、専門家としての責任が問われる局面が増えているといえます。

消費税の実務は複雑化しており、受任時において税理士と依頼者の役割分担を明確にし、日々の調査や確認の経緯を記録しておくことが、税理士と依頼者の信頼関係を維持するうえでも、重要であると考えられます。


関連記事はこちら


税理士の損害賠償責任における損益相殺

税理士の依頼者に対する損害賠償責任の免責条項

税理士が訴えられる「消費税」のトラブル

税理士の責任はどこまで及ぶか?


関連業務はこちら:税理士賠償責任に関する対応

 

法律相談のご案内

電話でのご予約

電話受付時間 平日9:30~18:30

03-6890-1259

土曜・夜間の相談も対応いたします 緊急の対応は応相談

メールでの相談予約

24時間受付

相談予約フォーム

法律相談のご案内

電話でのご予約

電話受付時間 平日9:30~18:30

03-6890-1259

土曜・夜間の相談も対応いたします 緊急の対応は応相談

メールでの相談予約

24時間受付

相談予約フォーム

アクセス
主なお客様対応エリア
上記エリアの方からのご相談が多いですが、その他のエリアのお客様もお気軽にご相談ください。
当事務所までの交通アクセス
ページトップへ