税理士の責任はどこまで及ぶか?
1 税理士が責任を負う場合とは?
税理士はどのような場合に依頼者に対して損害賠償責任を負うのでしょうか?
税理士が行っていた税務申告等に関連して依頼者に損害が発生した場合には、一般的に、債務不履行に基づく損害賠償責任と不法行為に基づく損害賠償責任が問題となります。
この2つの責任は、税理士の責任を追及する法律構成の違いによるものですが、いずれの責任についても、実際の裁判では、税理士が行っていた業務の内容、税理士が負うべき義務に違反したか否か、などが実質的な争点になります。
以下では、税理士の業務の種類や範囲、税理士の義務の内容という観点から、税理士が責任を負う場合についてみていきます。
2 やはり契約書が大切
税理士は、通常、依頼者から税務申告書の作成や提出などの依頼を受けて、依頼者との契約により業務を行います。
契約は、書面(契約書)を作成していなくても、口頭でも成立しますので、税理士が依頼者からの依頼を承諾して税務申告等の業務を行っている場合には、契約書の有無にかかわらず、税理士と依頼者の間には税務申告等について契約が成立していることになります。
税理士や依頼者からの相談を受けていると、契約書が作成されていないケースが少なくないと感じます。
契約書を作らなくても問題は無かった、長い付き合いなので今さら契約書を作ることを言い出しにくい・・・。
契約書が作成されない理由としてはいろいろな事情があります。
しかし、税理士と依頼者のトラブルが発生した場合に、契約書の有無が、税理士の責任の範囲を判断するうえで重要なポイントになってくることについては留意しておく必要があります。
税理士は、通常の税務申告等のほかに、依頼者に対する経営判断の指導や助言などの付加的な業務を事実上行っていることがありますが、内容が不明確な業務については、ひとたびトラブルが発生すると税理士の責任が問われる可能性があります。
したがって、税理士としては、自身の責任の範囲を明確にするためにも、契約書を作成して業務内容を具体的に明示しておくことが重要になります。
他方、もし依頼者が税理士の責任を追及することになった場合、税理士との契約の成否や業務の具体的内容を立証するのは依頼者の側となります。
そのため、依頼者の立場としても、契約書に税理士の業務内容を明示して税理士の責任の範囲を明確にしておくことは、依頼者の主張を立証するための証拠の保全につながります。
3 税理士の業務と税理士の責任
税理士は、依頼者の税務申告書の作成、申告代行や税務相談(以下では「税理士業務」といいます)について委任を受けて業務を行うことから、委任の趣旨に従い、善良な管理者としての注意をもって委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負います。
そして、税理士が、依頼者の税務申告書の作成や申告代行などにおいて、善管注意義務に違反した場合には、損害賠償責任を負うことになります。
具体的には、税理士業務において、税理士による単純な税務申告のミス、税法の解釈や適用の誤り、税務処理に関する情報提供や説明を怠ったことなどにより、依頼者に損害が発生した場合には税理士の責任が問題となります。
また、税理士には、税務書類の作成過程において、前提となる事実関係を把握したり、調査を尽くしたりする義務があることから、この点にも留意する必要があります。
近年の判例では、この税理士業務に関して、法令に適合した範囲内で依頼者にとってより有利な税理士業務の方法を選択すべき義務も認められる傾向にありますので、複数の税務処理が選択可能な場合には依頼者の意思を確認したうえで慎重に業務を行うことが必要です。
なお、税理士業務が円滑に行われるためには、依頼者が税理士からの要請に応じて必要な資料を提出することや、税務処理に必要な事項を事前に通知することなど、依頼者側の協力も不可欠です。
仮に税理士の責任の発生に関して、依頼者側にも原因があると認められる場合には、過失相殺により、税理士の責任が軽減されることになります。
税理士と依頼者の間では資料等の提供や責任について問題となりやすいことから、依頼者の税理士への資料の提供や必要事項の通知の責任分担についても契約書に明示しておくことが重要です。
4 税務処理の前提としての会計業務
税理士は、依頼者が会社の場合には、前述の税理士業務のほかに、それに付随する決算書類の作成や会計帳簿の記帳代行(以下では「会計業務」といいます)についても、委任を受けて業務を行うことがあります。
税理士の業務の実態としては、税理士が依頼者(とくに会社)から、税理士業務と会計業務の両方について委任を受けているケースがほとんどです。
この場合、税理士は、いずれの業務についても、善良な管理者としての注意をもって委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負うことから、税務申告等の業務においてだけでなく、決算書類の作成、会計帳簿の記帳の過程においても善管注意義務に違反した場合には損害賠償責任が問題となります。
具体的には、会計業務において、税理士の行った会計処理の誤りや会計帳簿の記帳ミスなどにより、その後の税務処理への影響を通じて依頼者に損害が発生した場合には、税理士の責任が問われることになります。
これは、会計と税務が密接に関連することから、会計処理の段階の誤りに起因して依頼者に不利益が生じることによるものです。
もっとも、一口に税理士が会計業務を行うといっても、税理士が領収書などの証憑書類により経理伝票を起票する段階から関与する場合や、経理伝票の起票自体は依頼者が行うものの、その後の元帳や試算表の作成、決算処理を税理士が行う場合など、いろいろな形態があります。
また、前述の税理士業務のように、税理士の会計業務が円滑に行われるためには依頼者側の資料提出等の協力も不可欠です。
そのため、会計処理の誤りが発生した段階や原因、税理士が行う会計業務の内容によって税理士の責任の範囲も異なってきます。
税理士が委任を受けて行う会計業務については、税理士と依頼者のトラブルが発生した場合に争点となりやすいことから、会計業務の内容や範囲については契約書にできる限り具体的に明示しておくことが大切です。
5 税理士の責任の傾向
税理士には税務の専門家として高度な注意義務が課せられており、税理士の責任が重くなる傾向にあることはたしかです。
しかし、税理士の業務の内容は専門的であり、依頼者側の事情も影響することなどから、具体的な事案における税理士の責任の範囲については、事例ごとの個別的な分析が必要となります。
税理士と依頼者のトラブルについて不安のある方は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
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