消費税の期間帰属と権利確定主義

1 消費税の期間帰属をめぐる問題

消費税の納付税額は、原則として、課税期間中の課税資産の譲渡等に係る消費税額から、課税仕入れに係る消費税額を控除して計算されます。
そのため、課税資産の譲渡等や課税仕入れがどの課税期間に帰属するかの判断は、各課税期間の納付税額を計算するうえで重要な問題となります。

他方、所得税や法人税においても、収入金額や必要経費、収益や費用がどの年分または事業年度に帰属するかの判断は重要であり、収入金額や収益の計上基準については原則として権利確定主義が妥当すると解され、必要経費や費用の年度帰属には費用収益対応の原則の考え方が論じられてきました。

それでは、消費税における課税資産の譲渡等や課税仕入れの期間帰属については、どのように考えるべきでしょうか?
以下では、消費税法の規定を踏まえながら、関連する裁判例やその考え方についてみていきます。

2 課税資産の譲渡等の対価の期間帰属

消費税の課税対象は、国内において事業者が行った資産の譲渡等であり(消費税法4条1項)、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とされています(同法28条1項)。
もっとも、課税資産の譲渡等の対価の期間帰属については、消費税法上、一般的な判断基準を明示した規定は置かれていません。
それでは、課税資産の譲渡等の対価は、どの課税期間に帰属すると判断されるでしょうか?

(1)裁判例における考え方

この点に関して、裁判例(東京地裁平成21年6月24日判決)は、消費税法28条1項が、課税資産の譲渡等の対価の額に関し、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額と定めていることなどから、「当該譲渡等の対価の額は、その実現があった時、すなわち、その受領すべき権利が確定したときの属する課税期間に課税標準の額として計上すべきものと考えられる」と判示しています。

他の裁判例(東京地裁令和2年12月22日判決)は、国税通則法15条2項7号が、消費税について、課税資産の譲渡等をした時に納税義務が成立する旨を規定していることや、消費税法28条1項が、課税資産の譲渡等の対価の額について、対価として収受し又は収受すべき一切の金銭等と定めていることから、取引が完了していれば対価が未収であっても課税の対象となると解すべきであり、課税資産の譲渡等による対価を収受する権利が確定した時点で課税資産の譲渡等があったと解するのが相当であると判示しています。

(2)課税資産の譲渡等の対価の期間帰属と権利確定主義

これらの裁判例は、消費税法28条1項の「収受し、又は収受すべき」という文言などを根拠として、課税資産の譲渡等の対価を収受すべき権利が確定した時点で課税資産の譲渡等があったものと解して、その時点の属する課税期間に課税資産の譲渡等の対価を課税標準として計上すべきものと判断しています。

これらの裁判例では、課税資産の譲渡等の対価を収受する権利が確定した時点を基準として期間帰属が判断されており、権利確定主義の考え方に沿うものといえます。

3 課税仕入れを行った日の判断

消費税の納付税額は、課税資産の譲渡等に係る消費税額から、課税仕入れに係る消費税額を控除して計算されます。
消費税法30条1項1号は、国内において行った課税仕入れに係る消費税額を、当該課税仕入れを行った日が属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除する、いわゆる仕入税額控除の制度を定めています。
もっとも、消費税法上、「課税仕入れを行った日」をいつと判断するかについて、具体的な基準を明示した規定は置かれていません。

(1)費用収益対応の原則との関係

所得税や法人税においては、必要経費や費用の年度帰属に関して、費用収益対応の原則の考え方が論じられてきました。
しかし、消費税の仕入税額控除は、取引段階の進展に伴う税負担の累積を防止するために、課税仕入れに含まれている消費税額を控除するものであり、所得税や法人税の所得計算上で必要経費や費用を収入金額や収益に対応させて年度帰属させる仕組みとは異なります。
そのため、課税仕入れを行った日の期間帰属については、費用収益対応の原則とは異なる観点から検討する必要があります。

(2)課税仕入れの時期と権利確定主義

この点に関して、裁判例(東京高裁令和元年9月26日判決・平成31年(行コ)第90号)は、消費税法2条1項12号の「課税仕入れ」の定義を踏まえ、課税仕入れと仕入れの相手方による資産の譲渡等は課税上表裏の関係にあり、同法30条1項1号の「課税仕入れを行った日」とは、仕入れの相手方において当該資産の譲渡等を行った日と時点を同じくするとしています。

また、国税通則法15条2項7号や消費税法28条1項の規定を踏まえ、資産の譲渡等による対価を収受すべき権利が確定した時点で、当該資産の譲渡等があったと解するのが最も適切であるとしており、権利の確定の有無を客観的に認識可能な事情を基にして判断することは、納税者の恣意を許さず、課税の公平を期するとして、消費税についても、権利確定主義が妥当するとしています。

そして、以上を踏まえ、消費税法30条1項1号の「課税仕入れを行った日」とは、仕入れの相手方において、当該資産の譲渡等について、同時履行の抗弁などの法的障害がなくなり、対価を収受すべき権利が確定した日をいうと解するのが相当であると判示しています。

この裁判例は、課税仕入れを行った日の判断について、仕入れの相手方における資産の譲渡等の時期を基準としています。そして、その時期については、当該資産の譲渡等の対価を収受すべき権利が確定した時点によるとする判断を示しています。

原判決は、課税資産の譲渡等の時期について、当該資産に係る権利(所有権)が移転した時を基準としている

なお、上記裁判例(控訴審判決)の原判決(東京地裁平成31年3月15日判決・平成29年(行ウ)第143号)は、消費税法4条1項が資産の譲渡等そのものを課税対象とし、国税通則法15条2項7号が課税資産の譲渡等をした時を消費税の納税義務の成立時期としていることから、課税資産の譲渡等の時期は、課税資産の譲渡等が現実に行われた時、すなわち、資産の譲渡においては、原則として、当該資産に係る権利(所有権)が移転した時と解するのが相当であるとしています。
そして、課税仕入れの時期についても、当該課税仕入れが現実に行われた時、すなわち、資産の譲受けにおいては、原則として、当該資産に係る権利(所有権)を取得した時をいうものと判示しています。

控訴審判決と原判決は、いずれも課税仕入れの時期を仕入れの相手方における課税資産の譲渡等の時期と対応させている点では共通しています。
しかし、課税資産の譲渡等の時期を判断する基準については、原判決が、消費税の課税対象が「資産の譲渡等」そのものであることに着目して、課税資産の譲渡等が現実に行われた時、原則として当該資産に係る権利(所有権)が移転した時を基準としたのに対し、控訴審判決は、消費税の課税標準である対価に「収受すべき」金銭等も含まれていることを踏まえて、対価を収受すべき権利が確定した時を基準とした点で異なっています。

4 まとめ

以上の裁判例では、消費税の課税資産の譲渡等の対価の期間帰属や課税仕入れを行った日の判断において、対価を収受すべき権利が確定した時点を重視する考え方が示されています。
もっとも、権利確定主義は、所得税や法人税における収入金額や収益の年度帰属に関して論じられてきた考え方です。
そのため、消費税における権利確定主義の内容については、所得税や法人税での議論との関係も踏まえ、消費税法の規定や制度の趣旨に即して検討することが重要になると考えられます。


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