収益認識基準と税務訴訟
1 法人税法上の収益認識の判断
法人税法の益金の額に算入すべき収益の額について、これまで税務訴訟で争われてきた争点の一つに、企業の採用する収益認識基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法22条4項・公正処理基準)に適合するかどうか、というものがあります。
収益の年度帰属に関する法人税法上の考え方(権利確定主義)を明示した最高裁平成5年11月25日判決(大竹貿易事件)についても、企業の輸出取引に係る収益計上の処理に関して、船積日基準と為替取組日基準の公正処理基準への適合性が争われたものです。
法人税法においては、益金の額に算入すべき収益の額は公正処理基準に従って計算すべきものとされていることから、企業の収益計上の処理が問題となる場合には、必然的に、企業の採用する会計処理の公正処理基準への該当性が争点になるといえます。
2 平成30年度税制改正に関連する今後の裁判所の判断
それでは、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」の公表に対応して行われた平成30年度税制改正を踏まえた場合、企業の収益認識にかかる今後の税務訴訟では、どのような裁判所の判断が明らかになるでしょうか。
(1)今回の法人税法改正では、まず、法人税法の益金の額に算入すべき収益の額を定めた法人税法22条2項を補足する通則的規定として、法人税法22条の2が新設されました。
したがって、今後の法人税法上の収益認識に係る税務訴訟において、法人税法22条の2の解釈が争点となる場合には、権利確定主義を明示した最高裁判決(大竹貿易事件)を裁判所が判決においてどのように参照するかによって、新設された法人税法22条の2に対する裁判所の姿勢が明らかになると思われます。
また、企業が採用する会計処理について、新設された法人税法22条の2と公正処理基準のいずれの条文で判断すべきかが争われる場合には、法人税法22条の2と公正処理基準の関係性についても裁判所の判断が示されるものと考えられます。
(2)なお、今回の法人税法改正では、公正処理基準に「別段の定めがあるものを除き」という文言が付加されています。
近年、公正処理基準については、不動産流動化実務指針の公正処理基準への該当性が争点となった東京高裁平成25年7月19日判決(ビックカメラ事件)のように、裁判所が法人税法の独自の観点から公正処理基準を解釈する傾向が主流となっています。
この傾向が公正処理基準と別の規定の適用関係にも影響を与えるのかについて、今後の裁判所の判断に注目する必要があります。
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