確定決算主義と法人税の申告

1 確定決算主義とは?

法人は、各事業年度終了の日の翌日から2か月以内に、確定した決算に基づき所定の事項を記載した申告書を税務署長に提出する必要があります(確定決算主義。法人税法74条1項)。

ここにいう「確定した決算に基づき」とは、株主総会の承認(会社法438条2項)を受けた計算書類を基礎として課税所得及び法人税額の計算を行うことを意味すると解されています。また、会計監査人設置会社では、株主総会に提出されて取締役による内容の報告(会社法439条)がなされた計算書類を基礎として課税所得等の計算を行うことをいうと解されます。

確定決算主義の趣旨は、会社の最高の意思決定機関である株主総会の承認等を受けた決算を基礎として法人税の課税所得を計算することにより、会社自身の意思に基づく正確な所得を把握する点にあります。
確定決算主義は、一定の損金の支出について、株主総会の承認等を要件として法人税法上の損金として是認することにより、課税所得の計算の適正化を図るという点において重要な意義を有しています。

以上のように、法人税の確定申告は、法人の「確定した決算」に基づいて行うことが求められています。

2 株主総会の承認を経ていない確定申告の有効性

それでは、株主総会の承認等を経ていない決算書類に基づく確定申告は、常に無効となるのでしょうか?
同族会社のような中小企業においては、株主総会が形骸化したり、開催されなかったりする実情があることから、株主総会の承認等の手続を欠いた確定申告の有効性が問題となります。

(1)確定申告が法人の意思に基づくものと認められる限り、税法上は有効な申告となる

この点に関して、裁判例(東京地裁昭和54年9月19日判決)は、株主総会の承認決議を経ていない決算書に基づく申告がなされた事案において、商法上の確定決算上の手続に依拠していないとしても、確定申告自体が、実質的に法人の意思に基づきなされたものと認められる限り、税法上は、法人税法74条に基づく有効な申告として扱うものと解する旨を判示しています。

この事案は、株主総会における計算書類の承認手続が行われておらず、会社の顧問税理士が貸借対照表、損益計算書と共に申告書を作成し、その申告書を会社代表者が了承して押印したうえで提出していたというものですが、この裁判例は、当該事実をもって、会社の意思に基づく申告書と認めることができるとしています。

(2)帳簿書類等を押収されていて正確な決算ができない場合は?

裁判例(大阪高裁昭和53年6月29日判決)は、法人が、法人税法違反の嫌疑で多数の帳簿書類等を押収されていて正確な決算ができないため、可能な限りでの決算資料に基づいて算出計上した概算の決算に基づく数字を記載し、可能な範囲の必要書類を添付して、「仮申告書」及び「確定申告書」と題する各書面を提出した事案において、いずれも法人が法人税の確定申告をする意思に基づいて適式にしたものであり、有効な確定申告というべきである旨を判示しています。

この裁判例は、当該事案のような概算の決算に基づく確定申告も法の許容する適法な申告と見得ることは、国税通則法施行令6条1項3号の規定に照らして明らかである旨を示しています。
具体的には、国税通則法によると、「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合において、その後、当該事情が消滅した」場合には更正の請求ができるとされています(国税通則法23条2項3号、国税通則法施行令6条1項3号)。
したがって、この規定に照らすと、同法は当該事案のような概算の決算に基づく確定申告について適法と解する余地を認めていると考えられます。

(3)株主総会の承認を経ていない確定申告の有効性に対する裁判所の考え方

法人が、年度末において、総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に決算を行って決算書類を作成し、これに基づいて確定申告をした事案において、裁判例(福岡高裁平成19年6月19日判決)は、当該決算書類につき株主総会等の承認が得られていなくても、当該確定申告は有効である旨を判示しています。

この裁判例は、我が国の株式会社の大部分を占める中小企業では、株主総会の承認を経ることなく、代表者や会計担当者等の一部の者のみで決算が組まれ、これに基づいて申告がなされているのが実情であると指摘しています。また、このような実情の下では、株主総会の承認を確定申告の効力要件とすることは実体に即応しないことから、株主総会の承認を経ていない決算書類に基づく確定申告が無効になると解するのは相当でないという考え方を示しています。
そして、決算がなされていない状態で概算に基づき確定申告がなされた場合は無効にならざるを得ないが、当該会社が、年度末において、総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に決算を行って決算書類を作成し、これに基づいて確定申告をした場合は、当該決算書類につき株主総会等の承認が得られていなくても、当該確定申告は有効と解すべきであるとしています。

この裁判例は、確定申告をする「法人の意思」について明示していませんが、総勘定元帳の閉鎖後の残高を基にして決算書類を作成したことやその決算書類に基づいて確定申告をしたという事実をもって、法人の意思の存在を実質的に認めていると考えられます。

3 まとめ

法人税の確定申告は、本来、株主総会による承認等を受けた決算に基づいて行う必要があり、納税義務者である法人が株主総会等の手続を経たうえで自らの所得を計算して申告することが原則となります。
もっとも、上記の裁判例は、会社法上の手続に依拠しなかった場合でも、確定申告自体が実質的に法人の意思に基づくものと認められる限り、税法上、有効な申告として扱うという考え方を示しています。
これらの裁判例を踏まえると、法人税の確定申告においては、仮に株主総会の承認等の法定手続を欠くような場合であっても、法人の意思に基づき一定の決算を行ったうえで申告することが重要になると考えられます。


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