個人の損害賠償金等に係る所得税法上の取扱い

1 個人が取得する損害賠償金等は原則として非課税となる

現行の所得税法は、個人が収入等の形で取得する経済的利得を所得と捉えたうえで、人の担税力を増加させる経済的利得の全てを所得として課税の対象とする考え方(包括的所得概念)を採用していると解されています。

もっとも、所得税法は、一定の所得について、社会政策的な見地や実費弁償的な性格などを踏まえて、非課税所得とする規定を設けており、その中で、個人が取得する損害賠償金等は原則として非課税とされています。

以下では、民事紛争の処理等において個人が取得する損害賠償金等に関して、所得税法上の具体的な規定や取扱いについてみていきます。

2 個人が取得する損害賠償金等の所得税法上の取扱いについて

所得税法は、保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他政令で定めるものを非課税所得とする旨を定めています(所得税法9条1項18号)。

そして、上記の規定の委任を受けて、所得税法施行令30条は、下記(1)から(3)の区分に応じて、非課税所得となる損害賠償金等の具体的な範囲を定めています。

損害賠償金等が非課税とされる理由について、裁判例(大阪地裁昭和54年5月31日判決)は、「損害賠償金、見舞金、及びこれに類するものを非課税としたわけは、これらの金員が受領者の心身、財産に受けた損害を補填する性格のものであって、原則的には受領者である納税者に利益をもたらさないからである。」としています。

(1)心身に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金等

心身の損害につき支払われる損害賠償金等は原則として非課税とされる

損害保険契約に基づく保険金等で身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金は非課税とされます(所得税法施行令30条1号)。
また、心身に加えられた損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるものも非課税とされます(同号括弧書)。

具体的には、交通事故により負傷した場合などに加害者から支払われる慰謝料、治療費等や遺失利益の賠償金、対人賠償保険による保険金などは非課税となります。

必要経費を補填するための金額は非課税とならない

なお、上記の損害賠償金等のうちに、損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分が非課税とされます(所得税法施行令30条柱書括弧書)。

この趣旨は、非課税所得となる損害賠償金等の金額から、必要経費を補填するための金額を控除することにより、当該金額につき「非課税所得」と「必要経費の控除」という二重の控除を防ぐ点にあると解されています。

これにより、例えば、個人事業主が交通事故により負傷して休業する場合において、加害者から支払われる損害賠償金の中に、当該個人事業主の休業期間中の使用人の給料等(=必要経費に算入される)を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額(=事業所得等の収入金額に算入される)を控除した残額が非課税とされることになります。

(2)資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金等

資産の損害につき支払われる損害賠償金は「不法行為その他突発的な事故」によるものが非課税とされる

損害保険契約に基づく保険金等で資産の損害に基因して支払を受けるもの並びに不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金は非課税とされます(所得税法施行令30条2号)。
資産の損害につき支払われる損害賠償金が非課税とされるのは、上記(1)の心身の損害の場合と異なり、「不法行為その他突発的な事故」による損害の場合に限定されています。

具体的には、交通事故により車両が破損した場合などに加害者から支払われる修繕費等の賠償金、対物賠償保険による保険金などが非課税となります。

「不法行為」と「その他突発的な事故」の関係については、「不法行為」が「突発的な事故」と同様の態様によるものに限定されるかどうかが争点となった事案において、法令の一般的な用語法に照らすと「不法行為」と「突発的な事故」は並列関係にあること、不法行為の態様が突発的な事故ないし同様の態様によるかそれ以外の態様によるかによって、損害賠償金の担税力に差異が生じないことを理由として、「不法行為」は、突発的な事故ないしそれと同様の態様のものに限られないと判断した裁判例(名古屋地裁平成21年9月30日判決)があります。

たな卸資産の損失に係る損害賠償金や休廃業に伴う収益補償金は非課税とならない

なお、上記の損害賠償金等のうち、所得税法施行令94条(事業所得の収入金額とされる保険金等)の規定に該当するものは非課税所得から除外されます(所得税法施行令30条2号後段括弧書)。

具体的には、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う者が①たな卸資産等につき損失を受けたことにより取得する損害賠償金等(所得税法施行令94条1項1号)または②当該業務の休止等により当該業務の収益の補償として取得する補償金等(同項2号)で、その業務の遂行により生ずべき所得の収入金額に代わる性質を有するものは、非課税所得から除外されて、それぞれの所得の収入金額とされます。

この趣旨は、業務を行う者が棚卸資産等の損失や業務活動の休止等により取得する損害賠償金や収益補償金を、通常の棚卸資産の販売等や業務活動により得た収入と実質的に同一であるとみて、各種所得の収入金額とする点にあると考えられます。

これにより、例えば、個人事業主が交通事故で被害を受けた場合において、運送中の商品につき損失を受けたことによって受領する損害賠償金等や業務の休止等による当該業務の収益の補償として受領する補償金等は、非課税所得から除外されて、事業所得等の収入金額とされることになります。    

必要経費を補填するための金額は非課税とならない

上記(1)の心身の損害の場合と同様に、損害賠償金等のうちに、損害を受けた者の所得金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額は非課税所得から控除され、その残額が非課税とされます(所得税法施行令30条柱書括弧書)。

(3)相当の見舞金

心身または資産の損害につき支払われる相当の見舞金は原則として非課税とされる

心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金は非課税とされます(所得税法施行令30条3号)。
例えば、葬祭料、香典又は災害等の見舞金などで、その金額が社会通念上相当と認められるものは非課税となります(所得税基本通達9-23参照)。

収入金額に代わる性質を有するものや役務の対価たる性質を有するものは非課税とならない

なお、上記(2)の資産の損害の場合と同様に、見舞金のうち、所得税法施行令94条の規定に該当するもの(事業所得等を生ずべき業務を行う者が受けるものでその業務の所得の収入金額に代わる性質を有するもの)や、その他役務の対価たる性質を有するものは非課税所得から除外されます(所得税法施行令3号括弧書)。

必要経費を補填するための金額は非課税とならない

また、上記(1)の心身の損害の場合と(2)の資産の損害の場合と同様に、見舞金のうちに、損害を受けた者の所得金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額は非課税所得から控除され、その残額が非課税とされます(所得税法施行令30条柱書括弧書)。

3 まとめ

所得税法は、上記のように、個人が取得する損害賠償金等を原則として非課税所得としていますが、実際の民事紛争の処理に際して授受される損害賠償金等に関しては、その性格や実態の判断に困難を伴う場合があります。
個人の損害賠償金等に係る所得税法上の取扱いについては、同法の非課税所得の規定の趣旨を踏まえたうえで、損害賠償金等の内容に応じて慎重に判断することが重要です。

 

関連業務はこちら:税金に関わる法務

 

 

法律相談のご案内

電話でのご予約

電話受付時間 平日9:30~18:30

03-6890-1259

土曜・夜間の相談も対応いたします 緊急の対応は応相談

メールでの相談予約

24時間受付

相談予約フォーム

法律相談のご案内

電話でのご予約

電話受付時間 平日9:30~18:30

03-6890-1259

土曜・夜間の相談も対応いたします 緊急の対応は応相談

メールでの相談予約

24時間受付

相談予約フォーム

アクセス
主なお客様対応エリア
上記エリアの方からのご相談が多いですが、その他のエリアのお客様もお気軽にご相談ください。
当事務所までの交通アクセス
ページトップへ