納税の緩和制度による納税者の保護

1 税金の徴収手続と納税の緩和制度

納税者は、納税義務が成立し申告等により納付すべき税額が確定した税金をその納期限までに納付する必要があります。
納税者が納付すべき税金を納期限までに完納しない場合、税務当局は、納税者に対し納税義務の履行を求める徴収手続に入り、納税の請求として、督促状により税金の納付を督促することになります。
そして、督促に係る税金が完納されない場合、税務当局は、租税債権を強制的に実現する段階に移行し、具体的には、滞納処分により納税者の財産の差押や差押財産の換価、換価代金等の配当を行うことになります。

税金の徴収手続における納税者の保護

税務当局が納税者から税金を厳正かつ的確に徴収する手続は、納税者の納税義務の適正な実現を通じて国や地方団体の租税収入を確保するだけでなく、税金を納付しない納税者と期限内に税金を納付した納税者との間の租税負担の公平を確保する点においても重要な手続です。
もっとも、税金の納付が困難となる納税者の事情には様々なものがあり、税金の納付や徴収の段階では、納税者の個別具体的な状況に応じて適切な配慮をする必要性も認められます。

そこで、税法においては、一定の要件の下で徴収手続を緩和して納税者を保護する措置が講じられており、具体的には、国税について、納期限の延長(国税通則法11条)や延納(所得税法131条以下、相続税法38条以下)、納税の猶予(国税通則法46条以下)や換価の猶予(国税徴収法151条以下)、滞納処分の停止(国税徴収法153条)などの納税の緩和制度が設けられています。

地方税についても、国税の場合と同様に、納期限の延長(地方税法20条の5の2)や徴収猶予(国税の納税の猶予に相当。地方税法15条以下)のほか、換価の猶予(地方税法15条の5以下)や滞納処分の停止(地方税法15条の7以下)といった納税の緩和制度により納税者の保護が図られています。

以下では、国税に係る納税の緩和制度のうち、納税の猶予、換価の猶予及び滞納処分の停止について、それぞれの内容や手続等をみていきます。

2 納税の猶予

(1)納税の猶予の要件と手続

納税の猶予は、納税者が国税を納付することができない場合に一定の要件の下で税金の徴収を猶予する制度です(国税通則法46条以下)。

具体的には、①災害により納税者がその財産に相当な損失を受けた場合、②災害や盗難、事業の休廃止等により納税者が国税を一時に納付できない場合、③一定の期間が経過した後に税額が確定したことにより納税者が国税を一時に納付できない場合に、税務署長等が納税者の申請に基づいて納税の猶予をすることになります。

① 災害により納税者が財産に相当な損失を受けた場合

税務署長等は、震災、風水害等の災害により納税者がその財産につき相当な損失を受けた場合、納税者がその損失を受けた日から1年以内に納付すべき一定の国税について、その災害の止んだ日から2か月以内にされた納税者の申請に基づき、その国税の全部または一部の納税を猶予することができます(国税通則法46条1項)。

具体的には、災害の止んだ日以前に納税義務が成立しその納期限が損失を受けた日以後に到来する国税で税額の確定したもの、予定納税に係る所得税等の国税でその納期限が損失を受けた日以後に到来するものなどについて、一定の要件の下で納税の猶予を受けることができます(国税通則法46条1項1号~3号)。

この納税の猶予を受ける場合は、その災害の止んだ日から2か月以内に、財産の損失の状況等を記載した申請書を税務署長等に提出する必要があります(国税通則法46条1項、46条の2第1項)。

納税の猶予期間は、災害による財産の損失の状況及び当該財産の種類を勘案して、その国税の納期限から1年以内の期間に定められます(国税通則法46条1項、国税通則法施行令13条1項)。予定納税に係る所得税等については、納税の猶予期間はその国税の確定申告の期限までとなります(国税通則法施行令13条2項)。

なお、この納税の猶予を受ける場合、猶予に伴う担保の提供は不要ですが(国税通則法46条5項参照)、猶予された税金の分割納付は認められていません(国税通則法46条4項参照)。

② 災害や盗難、事業の休廃止等により納税者が国税を一時に納付できない場合

税務署長等は、災害や盗難、病気や負傷、事業の休廃止等により納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、納税者の申請に基づき、その納税を猶予することができます(国税通則法46条2項前段)。

具体的には、下記のいずれかに該当する事実(国税通則法46条2項1号~5号。以下「猶予該当事実」といいます)に基づき、納税者が国税を一時に納付することができないと認められるときには、一定の要件の下で納税の猶予を受けることができます。
ア 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかったこと(国税通則法46条2項1号)
イ 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと(同2号)
ウ 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと(同3号)
エ 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと(同4号)
オ 上記のいずれかに該当する事実に類する事実があったこと(同5号)

上記の納税の猶予を受けるためには、猶予該当事実や国税を一時に納付することができない事情の詳細等を記載した申請書を税務署長等に提出する必要があります(国税通則法46条2項、46条の2第2項)。
この納税の猶予の場合、上記①の納税の猶予(災害により納税者が財産に相当な損失を受けた場合)と異なり、申請の期限は特に規定されていませんので、納期限の前後等を問わず、猶予該当事実が発生した場合には随時、申請をすることができます。

納税の猶予期間は、猶予を始める日から1年以内の期間に限られます(国税通則法46条2項)。
なお、税務署長等は、猶予期間内に納付できないやむをえない理由があると認めるときは、納税者の申請に基づき、当初の猶予期間と合わせて2年を超えない期間内で、猶予期間を延長することができます(国税通則法46条7項)。

この納税の猶予の場合には、税務署長等は、その猶予期間内(期間を延長する場合を含む)において、納税者の財産の状況等からみて合理的かつ妥当なものに分割して納付させることができます(国税通則法46条4項、8項)。

また、この納税の猶予を受けるためには、原則として猶予に係る金額に相当する担保を提供する必要がありますが、猶予を受ける金額が100万円以下である場合、猶予期間が3か月以内である場合、担保を提供できない特別の事情がある場合には担保は不要となります(国税通則法46条5項)。

災害により納税者が財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予(上記①)との関係

税務署長等は、上記①の納税の猶予(災害により納税者が財産に相当な損失を受けた場合)の適用を既に受けた納税者について、その災害に起因して猶予期間内に猶予された金額を納付することができないと認めるときも、その納付することができないと認める金額を限度として、当該納税者の申請に基づき、その納税を猶予することができます(国税通則法46条2項後段)。

③ 一定の期間が経過した後に税額が確定したことにより納税者が国税を一時に納付できない場合

税務署長等は、法定申告期限から1年を経過した日以後に納付すべき税額が確定した国税などがある場合、納税者がその国税を一時に納付することができない理由があると認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、その国税の納期限内にされた納税者の申請に基づき、その納税を猶予することができます(国税通則法46条3項)。

具体的には、税務調査の結果により過去数年分の修正申告等をする場合や課税処分(更正、決定)を受けるような場合において、過去の税金を一時に納付できない場合には一定の要件により納税の猶予を受けることができます。

この納税の猶予を受けるためには、猶予を受けようとする国税の納期限内に、当該国税を一時に納付することができない事情の詳細等を記載した申請書を税務署長等に提出する必要があります(国税通則法46条3項、46条の2第3項)。
例えば、修正申告書を提出する場合には、その修正申告書を提出した日が納期限となりますので(国税通則法35条2項1号)、この納税の猶予を受けるためには、申請書を修正申告書の提出日までに提出する必要があります。

納税の猶予期間は、その猶予された国税の納期限から1年以内の期間に限られます(国税通則法46条3項)。なお、税務署長等は、猶予期間内に納付できないやむを得ない理由があると認めるときは、納税者の申請に基づき、当初の猶予期間と合わせて2年を超えない期間内で、猶予期間を延長することができます(国税通則法46条7項)。

この納税の猶予の場合にも、上記②の納税の猶予(災害や盗難、事業の休廃止等により納税者が国税を一時に納付できない場合)と同様に、猶予期間内(期間を延長する場合を含む)の分割納付が認められます(国税通則法46条4項、8項)。

また、この納税の猶予を受ける場合も、原則として担保を提供する必要がありますが、一定の場合には担保が不要となります(国税通則法46条5項)。

(2)納税の猶予の効果

新たに督促や滞納処分を受けない

納税の猶予が認められた場合、猶予期間内は、その猶予された国税について新たに督促や滞納処分を受けることはありません(国税通則法48条1項)。

既に差押を受けている財産がある場合、その差押が解除される場合がある

納税を猶予された国税について既に滞納処分により差し押さえられた財産があるときは、猶予を受けた納税者の申請に基づき、その差押えを解除できる場合があります(国税通則法48条2項)。

延滞税が免除または軽減される

災害等による納税の猶予(国税通則法46条1項、2項1号、2号、5号)がされた場合、その猶予期間に対応する延滞税は免除されます(国税通則法63条1項本文)。
事業の廃止等による納税の猶予(国税通則法46条2項3号~5号、3項)がされた場合には、その猶予期間のうち、納期限の翌日から2か月を経過する日後の期間に対応する延滞税の2分の1が免除されます(国税通則法63条1項本文)。なお、2分の1が免除される場合については、一定の要件の下で、延滞税の負担が軽減されています(租税特別措置法94条2項)。

3 換価の猶予

納税者がその納付すべき税金を納期限までに完納しない場合には、税金の滞納となり、国税徴収法上、納付すべき税金をその納期限までに納付しない納税者は「滞納者」となります(国税徴収法2条9号)。

換価の猶予は、滞納者の財産の換価などにより滞納者の事業の継続や生活の維持が困難になるおそれがある場合などに、一定の要件の下で滞納処分による財産の換価を猶予する制度です(国税徴収法151条以下)。

(1)換価の猶予の要件と手続

① 職権による換価の猶予

税務署長は、滞納者の財産の換価を直ちにすることにより滞納者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあるとき、または滞納者の財産の換価を猶予することが直ちに換価をすることに比べて国税の徴収上有利であるときにおいて、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、その納付すべき国税について滞納処分による財産の換価を猶予することができます(国税徴収法151条1項本文)。

換価の猶予期間は、猶予を始める日から1年以内に限られます(国税徴収法151条1項但書)。
なお、税務署長は、猶予期間内に納付できないやむを得ない理由があると認めるときは、当初の猶予期間と合わせて2年を超えない期間内で猶予期間を延長することができます(国税徴収法152条3項、国税通則法46条7項)。

この換価の猶予をする場合には、その猶予期間内(期間を延長する場合を含む)の各月に分割して納付する必要があります(国税徴収法152条1項)。

また、換価の猶予を受けるためには、原則として猶予に係る金額に相当する担保を提供する必要がありますが、一定の場合には担保が不要となります(国税徴収法152条3項、国税通則法46条5項)。

② 申請による換価の猶予

換価の猶予については、平成26年度改正により、滞納者からの申請による換価の猶予の制度が創設されました。
具体的には、滞納者が国税を一時に納付することにより滞納者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるとき、税務署長は、その国税の納期限から6か月以内にされたその者の申請に基づき、その納付すべき国税について滞納処分による財産の換価を猶予することができます(国税徴収法151条の2第1項)。
なお、換価の猶予を受けようとする国税以外に滞納がある場合は、この申請による換価の猶予を受けることができません(国税徴収法151条の2第2項)。

この換価の猶予を受けるためには、必要書類を添付した申請書を税務署長に提出する必要があります(国税徴収法151条の2第3項)。

換価の猶予期間は、猶予を始める日から1年以内に限られますが(国税徴収法151条の2第1項)、税務署長は、猶予期間内に納付できないやむを得ない理由があると認めるときは、納税者の申請に基づき、当初の猶予期間と合わせて2年を超えない期間内で、猶予期間を延長することができます(国税徴収法152条4項、国税通則法46条7項)。

この換価の猶予の場合も、上記①の職権による換価の猶予と同様に、猶予期間内の各月に分割して納付する必要があります(国税徴収法152条1項)。
また、原則として担保を提供する必要がありますが、一定の場合には担保は不要となります(国税徴収法152条4項、国税通則法46条5項)。

「納税についての誠実な意思」とは?

換価の猶予においては、職権による場合と申請による場合のいずれについても、滞納者が「納税について誠実な意思を有する」ことが要件とされています。

ここでいう「納税について誠実な意思を有する」とは、滞納者が現在においてその滞納に係る国税を優先的に納付する意思を有していることをいうとされています(国税徴収法基本通達151条関係2、151条の2関係2)。
また、納税についての誠実な意思の有無の判定は、過去の納税の状況だけでなく、現在における滞納国税の早期完納に向けた取組も考慮して行われます(国税徴収法基本通達151条関係2、151条の2関係2)。

したがって、換価の猶予を受けるためには、現在の収入から滞納国税を優先的に納付することを内容とする今後の納付計画などを税務当局に提示して、納税についての誠実な意思を積極的に示すことが重要となります。

(2)換価の猶予の効果

既に差押を受けている財産の換価が猶予される

換価の猶予が認められた場合、既に差押を受けている財産の換価は行われません。

事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産につき、差押が猶予又は解除される場合がある

税務署長は、必要があると認めるときは、差押により滞納者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産の差押を猶予し又は解除することができます(国税徴収法152条2項)。

延滞税が軽減される

換価の猶予がされた場合には、その猶予期間のうち、納期限の翌日から2か月を経過する日後の期間に対応する延滞税の2分の1が免除されます(国税通則法63条1項本文)。なお、2分の1が免除される場合については、一定の要件の下で、延滞税の負担が軽減されています(租税特別措置法94条2項)。

4 滞納処分の停止

滞納処分の停止は、滞納処分を執行できる財産がない等の場合において、税務署長により滞納処分の執行が停止される制度です(国税徴収法153条)。

具体的には、滞納者について、①滞納処分の執行等をすることができる財産がないとき(国税徴収法153条1項1号)、②滞納処分の執行等をすることによって滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき(同2号)、③滞納者の所在及び滞納処分の執行等をすることができる財産がともに不明であるとき(同3号)のいずれかに該当する事実がある場合、税務署長は滞納処分の執行を停止することができます。

滞納処分の停止は、前述の納税の猶予や換価の猶予と異なり、滞納者(納税者)による申請は認められていません。

滞納処分の停止の効果

財産の差押が解除される

税務署長は、滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがあることから滞納処分の執行を停止した場合において、その停止に係る国税について差し押さえた財産があるときは、その差押を解除する必要があります(国税徴収法153条3項)。

納税義務が消滅する

滞納処分の執行が停止された国税に係る納税義務は、執行停止が3年間継続したときは、消滅します(国税徴収法153条4項)。

滞納処分の執行等をすることができる財産がないことから滞納処分の執行を停止した場合において、一定の場合には、税務署長は納税義務を直ちに消滅させることができます(国税徴収法153条5項)。

延滞税が免除される

滞納処分の停止がされた場合には、執行停止の期間に対応する延滞税は免除されます(国税通則法63条1項本文)。

5 まとめ

国税庁は、平成27年3月2日(令和4年6月24日改正)付け「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(事務運営指針)の別冊「納税の猶予等の取扱要領」において、納税の猶予等の処理にあたっての基本的な考え方や処理方法等を定めています。

そこでは、納税の猶予等の制度の目的について、納税者の個々の実情に即した適切な措置を講ずることにより、納税者との信頼関係を醸成し、税務行政の適切かつ円滑な運営を図る点にあるとしたうえで、滞納整理においては、画一的な取扱いをすることなく、納税者の個別的、具体的な実情に即して適切に対応することが必要であるという考え方が示されています。

納税者としては、納付すべき税金を納期限までに完納できない場合、その理由を税務当局に十分に説明し、現時点の資力や今後の納付計画を具体的に明らかにしたうえで、納税の誠意を示すことが重要といえます。

 

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