税務調査における反面調査と情報照会手続

1 税務調査による情報収集

税務調査においては、適正かつ公平な課税の実現を目的として、税務当局が法令上の手続を遵守したうえで、課税の根拠となる事実に関する資料や情報を収集することになります。

国税通則法における質問検査権の規定(国税通則法第7章の2)は、税務当局が更正・決定の課税処分やその他の処分等を行うための税務調査に関する各種手続を定めています。

また、税務行政においては、近年の経済取引の多様化や国際化に伴い、適正かつ公平な課税の実現のために情報収集の拡充を図る動きもみられます。

ここでは、税務調査による情報収集という観点から、税務調査における反面調査や新設された情報照会手続などについてみていきます。

2 税務調査における反面調査

税務調査の相手方としては、まず、納税義務がある者、納税義務があると認められる者などがあげられます(国税通則法74条の2第1項1号イ、2号イ、3号イなど)。

税務調査においては、納税義務者本人に対する調査によって、課税の根拠となる事実関係や取引の実態に関する情報が収集されることにより、適正かつ公平な課税の実現が図られることになります。

税務調査では納税義務者以外の者も調査の相手方となる

税務調査では、納税義務者と取引関係にある者(国税通則法74条の2第1項1号ハ、2号ロなど)、支払調書や源泉徴収票等の提出義務がある者(同法74条の2第1項1号ロ)など、納税義務者以外の者も調査の相手方となります。

このような納税義務者以外の者に対する税務調査は、一般的に「反面調査」と呼ばれます。

納税義務者本人に対する調査と反面調査の関係について、判例の趣旨は、客観的な必要性があると認められる場合には、納税義務者本人の調査を経ないで反面調査を行うことを認める趣旨であると解されています(最高裁昭和48年7月10日決定、最高裁昭和58年7月14日判決)。

反面調査は慎重に実施される必要がある

反面調査は、実務上、納税義務者本人に対する調査だけでは申告内容に関する事実関係の把握が困難であるような場合に、納税義務者以外の者に対して実施されるものです。

しかし、納税義務者の取引先や金融機関に対して反面調査が行われる場合には、納税義務者本人の経済的信用に多大な影響を与えることから、反面調査は慎重に実施される必要があります。

そのため、税務当局は、取引先等に対する反面調査を実施する場合には、反面調査の必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分に検討することが求められています。
また、税務当局は、反面調査を実施する場合には、反面調査である旨を取引先等に明示したうえで実施することが必要になります(調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)第2章3(6))。

3 情報照会手続の整備

近年、暗号資産(仮装通貨)取引やインターネットを利用した匿名性の高い取引の増加などにより、経済取引の多様化や広域化が進展しています。
そのような中で、令和元年度改正(平成31年3月の国税通則法の一部の改正。令和2年1月1日施行)においては、適正かつ公平な課税を実現するため、下記の情報照会手続の整備が行われました。

(1)事業者等への協力要請の整備

従来、税務当局は、国税に関する調査について必要があるときは、官公署に対して、帳簿書類やその他の物件の閲覧や提供その他の協力を求めることができるとされてきました(旧国税通則法74条の12第6項)。

一方、事業者からの情報収集については、これまで、税務当局が事業者に任意の協力要請を実施してきたとされています。
しかし、事業者への協力要請には、税法上の根拠がなく、実務上、事業者からの情報提供の協力が得られない場合もあり、課税上の不公平の解消などが課題とされていました。

令和元年度改正では、税務当局による協力要請の相手方について、官公署のほかに「事業者」が追加されたことにより、事業者への情報提供の協力要請の法令上の根拠が整備されました。

これにより、税務当局は、国税に関する調査について必要があるときは、官公署に対してだけではなく、事業者に対しても、法令上の根拠に基づき、当該調査に参考となるべき帳簿書類やその他の物件の閲覧や提供その他の協力を求めることができることになりました(改正国税通則法74条の12第1項)。

(2)特定事業者等に報告を求める制度の新設

令和元年度改正では、情報照会手続の整備の一環として、一定の無申告者等を特定するため特に必要な場合に限り、事業者等に報告を求める制度が新設されました。

既存の質問検査権(税務調査)の規定は、調査の相手方(納税義務者本人や反面調査先)が特定されていることを前提としたものといえます。
そのため、既存の税務調査の手続については、近年のインターネットを利用した匿名性の高い取引を行う者を特定する手段として活用することが困難とされていました。

そこで、調査の相手方を特定せずに、課税対象となるべき匿名性の高い所得を適切に把握するための手続として、この事業者等に対し報告を求める制度が創設されました。

税務当局が一定の事業者等に対し取引対象者の情報について報告を求める制度

この制度は、税務当局が、暗号資産(仮装通貨)交換業者やインターネット上のプラットフォーム事業者等に対し、一定の条件に該当する取引対象者の情報を照会して報告を求める場合を想定していると考えられます。

もっとも、事業者等の事務負担を考慮して制度の慎重な運用を図る見地より、事業者等に対して報告を求めることができる場合及び報告を求める事項は限定されています。

具体的には、所轄国税局長は、「特定取引」の相手方となり又は特定取引の場を提供する事業者や官公署に対し、特定取引を行う者に係る「特定事項」について、60日を超えない範囲内でその準備に通常要する日数を勘案して定める日までに報告を求めることができるとされています(改正国税通則法74条の7の2第1項)。

ここにいう「特定取引」とは、電子情報処理組織(インターネット)を使用して行われる事業者等との取引等のうち、この報告の求めによらなければ取引をしている者を特定することが困難な取引とされています(改正国税通則法74条の7の2第3項2号)。
また、税務当局が報告を求める「特定事項」は、①対象者の氏名(法人については名称)②住所又は居所③個人番号又は法人番号に限定されます(改正国税通則法74条の7の2第3項4号)。

そして、この報告を求めることができる場合は、国税に関する調査について必要がある場合において、一定の無申告者の存在が認められる場合や税法違反の事実が推測される場合に限定されています(改正国税通則法74条の7の2第2項)。

報告の求めに対する不服申立及び訴訟が可能

この報告の求めは、国税に関する法律に基づく「処分」に該当するとされています(改正国税通則法74条の7の2第2項参照)。
したがって、報告を求められた事業者等が当該報告の求めに不服がある場合には、不服申立(再調査の請求、審査請求)や訴訟をすることができます(国税通則法75条1項、114条)。

なお、この報告の求めについては、正当な理由なく拒否した場合や虚偽報告をした場合の罰則も設けられています(改正国税通則法128条3号)。

4 まとめ

税務調査は、税務当局による情報収集の必要性と納税者の権利保護を比較考量したうえで、社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行われるものです。
新設された情報照会手続についても、情報収集先の事業者等の事務負担に十分配慮したうえで実施されることが求められており、今後の実務の集積が注目されます。


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